ワンポイント・ぜみなーる

ダムの役割 

ダムにはどのような役割があるのでしょうか。
ダムの各部の名称や役割などを全4回に分けてわかりやすく紹介します。

(財)ダム水源地環境整備センター
ダム広報センター
 


第1回:ダムの目的、ダム各部の名称編(5月号)
第2回:治水編(6月号/今回)
第3回:利水・環境編(予定)
第4回:ダム管理所の役割編(予定)

 


                                      illustrated by Kazuo Kawasaki


第2回 治水編

第1回では、ダムの使用目的には大きく「治水」と「利水」の2つがあることを紹介しました。第2回は、「治水」について紹介します。
ダムの使用目的の「治水」とは、洪水時に流れ込む水の一部を貯めて、下流河川の洪水の水を減らして、水害を除くことです。
下流のために洪水の一部を貯めることを「洪水調節」といいます。


【 洪水調節のしくみ 】


(1)ダムによる治水=洪水調節

一般的に、洪水で被害が起こらないような対策を「治水」といい、川の堤防を造る「築堤」、川幅を広げる「拡幅」、川底を下げる「河床掘削」、ダムに流れ込む水の一部を貯める「洪水調節」、 一時的に川から洪水をあふれさせて貯めておく「遊水地」などの方法があります。
ダムによる洪水調節は、洪水時に川からあふれる量をダムで貯めるもので、下流河川が安全に流せる量を見込んでダムから放流します。
つまり、ダムでは洪水の全部を貯めるのではなく、洪水の最中でもダムから放流しています。
洪水調節とはどのように行われるのでしょうか。以下に説明します。



(2)洪水に備える

台風や大雨による洪水の起きやすい季節には洪水に備え、前もってダムの貯水位を下げ、貯水できる容量を空けておきます。
洪水時以外はこの貯水位を保つよう管理しています。


 



(3)洪水を貯め込む(洪水調節)

大雨が降り洪水になると、ダムへ流入してきた洪水の一部を貯水池に貯めこみ、下流河川が安全に流せる量を見込んで、ダムから流します。
どれだけ貯めこみ、どれだけ流すかは、ダム毎のルール(操作規則)が事前に決められています。
洪水の大きさや継続時間は現状の気象予測では確実でないため、実際の流入量の数値を見て、ルールによる放流量をダムから流すこととなっています。


 



(4)次の洪水に備える

大雨が終わりダムへ流入する洪水も小さくなり、川の水位も下がったころ、
次の洪水に備えて元の空き容量を確保するためダムの貯水位を下げます。


 


(5)元々予定した規模(計画規模)を超える異常な洪水への対応

異常な豪雨により、計画よりも大きい量の洪水がダム貯水池へ流れ込むことがあります。ダムでも精一杯、洪水を貯めつつ下流へ流す操作を行いますが、ダムに貯めることができる水量には限界があります。
このような場合には、下流に流す量を徐々に増加させ、最後は貯水池に入ってくる水量と同じ量を下流に流すよう(自然河川状態)にします。

 


(6)洪水調節図の見方

ダムの洪水調節結果は、一般的に洪水調節図で公表されます。基本的な洪水調節図の見方を紹介します。
洪水調節図は、ダムに入ってくる洪水の量(流入量)と同じ時刻にダムから流す水の量(放流量)を時間を追って1つのグラフに表したものです。



流入量(赤線)より放流量(青線)が小さい時は、入ってきた量より出す量が少ないので貯水池に貯留(赤ハッチ部分)されます。
このように洪水の一部を貯めることを「洪水調節」と呼び、下流河川で流せる量とダムの容量の大きさにより、 どのくらいの流入量からどのくらい貯留するかは、各ダム毎にルール化(操作規則)されています。
ダムで「どのくらいカットした(調節した)」というのは、その洪水の最大流入量と最大放流量の差をいいます。
従って、洪水調節とは、洪水の時にダムで全て貯めてダムから放流しないというのではなく、下流河川で安全に流せる量はダムから放流して、川からあふれる量はダムに一時貯めておくという仕組みです。



【 用語の説明 】

ダムの貯水容量を使うためには、目的毎の容量に相当する貯水位を定めて管理しています。
多目的ダムの貯水位と貯水容量の関係は、一般的に次のようになっています。

・ダムの貯水位
(1)設計洪水位(設計最高水位):想定される最大規模の洪水流量(200年に1回程度または既往最大洪水流量のいずれか大きい方:ダム設計洪水流量という)がダムから流下している時の貯水池最高水位を指します。
(2)サーチャージ水位(洪水時最高水位):洪水調節によりダムに一時的に貯留できる最高水位です。
(3)常時満水位(平常時最高貯水位):平常時(非洪水時)にダムに貯留する最高水位で、利水や発電で使用している時や洪水時以外はこの水位に保たれます。
なお、洪水期にも常時満水位としているダムがあります。(オールサーチャージ方式)
(4)最低水位:ダムの容量を使用できる最低限の水位です。
(5)洪水期制限水位(洪水貯留準備水位):洪水調節を目的とするダムで、洪水期に洪水調節容量を確保するために非洪水期の常時満水位よりも水位を低下させている水位です。

・ダムの貯水容量
(1)総貯水容量:川底からサーチャージ水位までの全ての容量です。
(2)有効貯水容量:最低水位からサーチャージ水位までの容量で、利用できる容量です。
(3)洪水調節容量:制限水位方式は洪水期制限水位からサーチャージ水位までの容量、オールサーチャージ方式は常時満水位からサーチャージ水位までの容量です。
(4)利水容量:最低水位から常時満水位までの容量です。
(5)堆砂容量:一定期間(一般には100年間)にダム貯水池に堆積すると予想される流入土砂を貯めることができる容量です。
(6)死水容量:堆砂容量の最上面と最低水位との間の容量。発電目的が含まれるダムや発電専用ダムでは、発電の落差を得るため堆砂容量の他に利用しない死水容量があります。 この場合、最低水位は堆砂容量と死水容量を合わせた容量の上面になります。



ダムの役割「治水」についてご理解いただけたでしょうか?
もっと知りたい役割、名称、機能等について、 ダム水源地ネットメールフォームよりご質問下さい。
可能な範囲で当コーナー「ワンポイント・ぜみなーる」上に回答を掲載します。
次回の【ダムの役割】は「利水・環境編」です。


【参考】

・ダム諸量データベース/国土交通省ホームページ
・ダム便覧2008/(財)日本ダム協会ホームページ
・リザバー NO.16/(財)ダム水源地環境整備センター(2007年12月号)

【イラスト】

川崎一雄