水源地づくりレポート

安波・普久川・辺野喜ダム水源地域ビジョンにおける地元NPOの取り組み

                      (平成17〜19年度ダム水源地域サポート事業)

                     

 

特定非営利活動法人 国頭ツーリズム協会
久高 将洋
 

1.亜熱帯気候が育む森と海の村 やんばる国頭村(くにがみそん)

ガイドウォーク   

   沖縄本島北部の国頭村は、南北に連なる脊梁山地と広大な森林が広がっていることから、「やんばる(山原)」と呼ばれています。やんばるの面積は日本全体のわずか0.1%しかありませんが、固有種の割合が非常に高いのが特徴です。鳥類ではヤンバルクイナやノグチゲラ、昆虫類はヤンバルテナガコガネなど、世界でもやんばるだけに棲む固有種が多くいます。
  国頭村はこのような多種多様な生き物で構成される深緑の山々と、青い海に囲まれており、そこで育まれた生活文化と地域固有の風土に恵まれた場所です。



2.やんばるの昔と今

ネイチャーゲーム

1960年以前(戦後復興期)までは、やんばるの豊かな森林資源を活かし、集落を単位とした沖縄本島中南部(都市部)への一大木材供給地でした。薪炭・建築材等の物資は、やんばる船など海上の航路により運ばれ、帰りの船には塩・石鹸・酒(泡盛)等の生活必需品などを積み込んで運ぶなど、相互依存の関係がありました。
  現在はやんばるの5ダムと12河川から中南部への生活用水や工業用水等を供給しており、その量は沖縄島全体の消費量の約半分にもなります。近年は、都市部や県外からは自然への安らぎや癒しを求める多数の行楽客が、やんばるを訪れるようになってきました。



3.国頭ツーリズム協会の取り組み

ジャングルカヌー

ジャングルカヌー

   平成15年8月に国頭村に位置する安波(あは)・普久川(ふんがわ)・辺野喜(べのき)ダムを対象とした水源地域ビジョンが策定されました。このビジョンの基本目標は1.国頭の豊かな自然と共生した拠点・題材づくり、2.地域づくりの拠点や題材を有効に活用するため、ひと・場・情報の魅力あるネットワークづくり、3.地域住民を中心とし、地域から広がる活性化の仕組みづくりの3つです。
  私たちも水源地域ビジョン策定委員会の構成メンバーとして、ダム湖面の利活用の在り方や保全と活用のゾーニングに関わり、特にインタープリターなどの人材育成に力を入れてきました。
 人材育成では地域住民を対象とし、まず「地域の宝物=資源探し」をしっかりやりました。フィールドワークを通して、足元に当たり前にあるものの価値を再発見し、それらを知識として身につけるだけでなく、その伝え方、活かし方をじっくり学びました。
 現在では10名を超える地元住民がインタープリターとして、やんばるの自然をフィールドに様々なツアー企画を練り、野鳥観察やトレッキング、安波ダム湖面でのカヌーツアーや環境学習プログラムなどを実践しています。





4.国頭村環境教育センター「やんばる学びの森」

学びの森散路

平成19年7月には安波ダムに隣接するように国頭村環境教育センター「やんばる学びの森」遊びのゾーン(指定管理:NPO国頭ツーリズム協会)がオープンしました。 
ここは、米軍訓練場の跡地を利用した自然公園です。
  やんばるの環境学習の拠点として、保育園や学童、小中学校、高校、大学などの教育機関が訪れるほか、観光客など一般の来訪者も訪れます。森の中には1.5kmの自然散策路があり、地上17mの高さで樹幹を観察できるキャノピーテラスやシダの谷を渡る吊り橋など、やんばるの森の特徴がよくわかる人気のスポットになっています。
 また、併設されたカフェからはハーブティやおやつ(森のティーセット)を散策路に持ち込んで、湖面の見えるテラスでのんびりと過ごすこともできます。
夏季には安波ダムまつりも開催され、親子キャンプではカヌー体験やオートキャンプ場での夜空のナイトシアターのほか、ダム職員による堰堤見学や湖面遊覧が行われました。
 昨年は水、ゴミ、農産物をテーマに第2回沖縄県子ども環境サミット(国頭村との共催)も開かれるなど、周辺地域および自然環境の特性を活かした様々なプログラムが継続して、展開されるようになってきました。


5.人材育成と地域活性化

森のティーセットレンタル   

   

   人材育成と地域活性化というと、すぐに経済的に利益としての成果に結びつけてしまいがちです。収入を得ることは、もちろん大事ですが、地域の資源を守り、次の世代に伝えようとする価値観を備えた人々が住む、元気で自信が持てる地域にすることが第一です。 
今、地元では持続可能な環境保全型産業構造(観光・農業・漁業etc)の構築の必要性が叫ばれています。10年後、20年後、50年後もしっかりと地域の人々が生活を続けていることがなによりも大事であり、その目標に向かって私たちは今後も積み重ねていきます。