鬼怒川上流ダム群におけるインフラツーリズムの取り組み

栃木県日光市
有限会社ネイチャープラネット 代表取締役 坂内 剛至

地域の概要

 私が住む日光市(鬼怒川上流地域)には、国土交通省・栃木県・東京電力が管理するダムが10基以上もあり、幼少の頃からダムは非常に身近な存在として、ごく当たり前のように過ごしてまいりました。川治ダムの建設当時、私はまだ小学生で実家が肉屋を営んでおり、よく配達に行く父親の車の助手席に乗って工事現場近くの飯場まで連れて行ってもらっていた思い出があります。同級生や上下級生にも、ダムの建設に関わる転入・転出がたくさんありましたし、夜の温泉街もダム建設に関わる職人達で賑わっていた印象が深いです。

経緯

 ダム見学ツアーを始めたきっかけは、JR東日本が主導して実施する大型の観光プロモーション“栃木デスティネーションキャンペーン”(以下DC)《2017年プレDC、2018年本DC、2019年アフターDC》に向けた観光素材の洗い出しを川治温泉内の会議で行なった際、従来の温泉・自然といった素材(資源)だけでは他の観光地との差別化が図れず、情報が表に出ないまま埋没してしまうと考え、他の地域には無いもの=“ダム”という理由でダム見学ツアーを提案し、企画検討を始めました。

 川治温泉は温泉街の上流に国土交通省が管理する「五十里ダム」と「川治ダム」があり、下流には栃木県が管理する「小網ダム」の合わせて3つのダムに囲まれているため、この地域の特性を活かさない手はないということと、関東地方内においてもダムの密度が高い地域で、都心から近く色々な種類のダムが手軽に見ることができるため、ダム愛好家の力を借りてSNS等での情報発信をしてもらおうという発想でした。

五十里ダムの概要

 昭和31年(1956年)に完成された重力式コンクリートダム。高さ112m・堤長267mで、当時の重力式コンクリートダムとしては日本一の高さを誇り、また国産第一号の高圧スライドゲートの導入など、その技術は、その後次々と誕生したコンクリートダム建設の礎を築いたと言われている。平成11年(1999年)~平成15年(2003年)の改良工事では新コンジットゲートが建設され、現在は令和元(2019)年度完成に向け、選択取水設備と発電設備の工事をおこなっている。

 最も興味深かったのは五十里(イカリ)という地名の由来。江戸時代より、東京(江戸)の日本橋から会津方面へ50里(200km)の地点にあったとして起こった村(宿場)が五十里村といわれているが、地名語源辞典によれば、イカリは、谷を上りつめた所の小平地、山間の小河盆をいい、また堰のある所、洪水の起こりやすい所の意味があるという。まさに五十里村は1683(天和三)年の日光大地震で葛老山が崩れ男鹿川がせき止められ、村が湖底に沈んだ。40年後、1723(享保八)年の五十里大洪水でせきが決壊し、元の村へ立ち帰ったが、昭和31年に五十里ダムができて再び村が湖底に沈むことになったという歴史がある。

 こうして歴史を紐解き、調べていくと、面白いことが次々と判明し、ますます興味がそそられていくことを実感しました。

五十里ダムの概要

 昭和58年(1983年)に完成された高さ140m・提長320mのアーチ式コンクリートダム。鬼怒川上流では最も高いダムで、アーチ式としては国内で4番目に高いダム。ゲートはクレストゲート6門・コンジットゲート2門・低水放流管があり、ダム本体のコンクリートの厚さは、天端で約10m 中央部分で約16m ダム底で約22m、アーチ式コンクリートダムの特徴が良く現れている。川治ダムは、険しいV字谷に設置された放物線アーチダムで、上部標高で大きくオーバーハングさせ、ひさし状に張り出しており、その長さは16mあり、国内でも屈指の張り出し長を誇る。

 川治ダムの上流にある川俣ダムもアーチ式で、とても身近なものとして認識しておりましたが、アーチ式ダムの割合は全国の2%程しかないという事実を知った時には驚いたのと同時に、改めて鬼怒川上流ダム群のポテンシャルの高さを認識しました。

小網ダムの概要

 昭和33年(1958年)に完成された高さ23.5m・提長128m重力式コンクリートダム。 栃木県企業局が管理しているダムで、五十里ダムとほぼ同時期に発電を目的として造られた。五十里ダム上流130mに設けた取水口から最大毎秒16.60㎥の水を取り入れ、川治第一発電所に送り、最大15,300kw(7,700軒分相当の電力)の発電を行なっている。発電で使用した水は、温泉街の下流にある小網ダム湖に一旦注がれ、下流河川の水位変動を安定化させている。再び小網ダム左岸側にある取水口から最大で毎秒12.52㎥の水を取り入れ、川治第二発電所に送られ、最大2,600kwの発電を行なっている。その後、発電に使用された水は放水路を経て東京電力竹の沢発電所へと送られている。

 こうして発電で使われる水を追っていくだけでも、ダムが面白いところで繋がっているということが判明し、また新たな興味が掻き立てられます。

ツアーの内容

 小型バスを運行し、小網ダム~五十里ダム~川治ダムの順に見学。五十里ダムでは、通常一般の方は入れないダム直下に入り、新コンジットゲート上の監査廊を歩きながらダムの概要および工事の説明をするほか、エレベーターでダム堤体内に入り、国産第1号高圧スライドゲートを見学。川治ダムでは、こちらも通常は入ることができないダムの堤体内の監査廊(通称:キャットウォーク)を歩きます。3つのダムを見学し、3枚のダムカードを入手することができるほか、本ツアーでの特典として、オリジナルのダムカードを作成し、参加者だけに配布。全体で約2時間のツアーとしてパッケージ化し、旅行会社等にも販売をしています。

運営組織
 地域組織(川治温泉旅館組合・川治活性化推進協議会)が主体となり、日光市観光協会を運営責任者としてダム施設使用における申請の窓口とし、運営事務局(連絡調整・ガイド)をネイチャープラネットが請け負う形として運営。

上手くいった(成功した)点
 国土交通省の協力が得られ、ダム堤体内へ入る許可をいただけたこと。
 他(地域)にはない特色を出すことができたこと。
 新しい取り組みだったため、メディアうけした。
 プレミアムダムカードがダム愛好家の中で噂が広まり、SNS等を通じて情報が拡散された。(ねらい通り!)


 栃木県が後を追うように本DCおよびアフターDCで限定ダムカードを発行した影響で更にダム人気が加速した。

課題・改善点
 安全面や催行・中止等の基準設定。(前例がないため、明確な基準がない)
 開催時期や期間。平日開催の可否。リピーター対策。
 採算がとれる料金設定。
 ガイドの育成。(専門性が高く、知識はもちろんのこと、伝えるスキルも求められる)

今後の展望・目標
 栃木DCが終わり、やや勢いに陰りがみえるものの、この3ダム見学ツアーはインフラツーリズムのパイオニアとして存続させ、ブラッシュアップしていきたい。
 今後は鬼怒川上流4ダムを巡るツアーを造成し、販売していきたい。

インフラツーリズムに期待すること
 公的施設の利活用で地域が潤う(稼ぐ)仕組みを作れる(試せる)ことで、ニュービジネスの創出が期待できる。
 民間主導型の公民連携の形が生まれることで、稼げる地域を目指せる。