図書紹介:水害列島日本の挑戦-ウィズコロナの時代の地球温暖化への処方箋

今年7月は、前線性の豪雨により熊本県の球磨川流域を中心として80名を超える死者・行方不明者が生じるなど甚大な被害が発生しました。令和元年東日本台風、平成30年の西日本豪雨など、近年は毎年のように大きな被害を伴う水害が発生しています。

地球温暖化の影響が生じ始め、さらなる影響の拡大が懸念される現状の下、水害への対処は重大な課題となっています。

本書は、水害を受けやすい国土構造を宿命的に持つ日本という国が、いかなる方策を今後取っていくべきか、多面的に分析した図書です。さらに、新型コロナウィルスの感染が広まる中、避難所の運営、災害対応に従事する建設業の事業継続など様々な面で制約が生じている中での対応のあり方についても書かれ、ホットな話題にも対応しています。A4版184ページで写真や図表が豊富に入ったオールカラー本です。

本書では、まず日本及び世界における最近の災害状況が分析されています。最近の主要水害における被害がビジュアルに示されています。

今年の7月豪雨で被災した青井阿蘇神社と壊れた禊橋
(本書より)

次に、本書は気候変動影響の現状と今後の見通しを説き明かします。日本と世界の気温や海水位の変化、それに伴う災害の発生頻度や規模の変化の見込みなどが示されます。北極圏の永久凍土層や世界の森林地帯で起きている気候変動影響などもわかりやすく解説されています。

さらに、深刻化する災害リスクの多様な形態や、大規模な避難が必要となる事態が生じた場合の課題等を本書は明らかにします。そして、治水投資の積み重ねによりいかなる効果が得られるのか、具体の事例を通じて示されています。

ダムに関しては、事前放流を含めたダムの有効活用策や、緊急放流(異常洪水時防災操作)についても具体事例も含めてわかりやすく解説しています。

また、最近のホットなテーマである流域治水についても、その背景となる治水理念から説き起こして解説されています。

さらに、テックフォースの活動や、建設産業が災害対策に果たす役割についても本書は実際の災害対応事例も挙げながら解説しています。そして、ウィズコロナ時代の下における、社会を支えるエッセンシャル・ワーカーである建設産業の事業継続や、水防団や運輸産業なども含めた幅広い連携の取組の重要性についても明らかにしています。気候変動による水害研究会著、日経コンストラクション編、日経BP社発行。定価2,200円+税。

目次一覧

    1章 激甚化が止まらない

  • ●広域に降る猛烈な雨
      平成30年(2018年)7月豪雨(西日本豪雨)
      令和元年(2019年)東日本台風(台風19号)
      令和2年(2020年)7月豪雨
  • ●暴風・高潮をもたらす台風
      平成30年(2018年)台風21号
      令和元年(2019年)房総半島台風
      〔コラム〕東日本台風での草木ダムの事前放流
  • ●地球規模で異変が頻発
      近年の世界の水害
      世界の水災害の発生状況

    2章 異常気象の発生と地球温暖化

  • ●異常気象の発生状況
      豪雨災害をもたらす異常気象
      気温の変動
      降水量の変動
      海面水位の変動
      〔コラム〕地球温暖化に伴って増加する様々な災害リスク
  • ●温暖化に対する国際社会の動き
      国連IPCC第5次評価報告書
      パリ協定
      ICPP1.5℃特別報告書とCOP25
  • ●日本における緩和策と適応策
      気候変動を踏まえた国内の諸政策

    3章 深刻化する災害リスク

  • ●激変する発生形態
      相次ぐ気象、出水、高潮の記録更新
      広域でおびただしい河川の氾濫が発生
      バックウォーター現象と内水氾濫
      堤防の背後からの越水破堤
      相次いだ土砂・洪水氾濫
      〔コラム〕カスリーン台風による未曽有の被害
  • ●多様な被災形態
      氾濫が誘発する多種多様な被害
      強風が誘発する多種多様な被害
      下水道施設の機能不全
      新たなニーズを受けて繰り返される水防法改正
      浸水被害で経済に大打撃
      “逃げない"問題が浮き彫りに
      要配慮者を救え
      難しい広域避難
      緊急放流、そのときダムに何が
      土砂災害や洪水氾濫が招く交通途絶
      〔コラム〕首都圏の大河川で想定される洪水氾濫

    4章 防災・減災への針路

  • ●治水の技術理念
      世界有数の難度抱える日本の治水
      水害リスクカーブ
      治水の技術理念の根幹
      組み合わせで挑む「流域治水」
      氾濫耐性の向上に不可欠な地域の力
      気候変動影響への備え方
  • ●重み増す事前防災と成功事例
      継続的な治水対策で救われた利根川
      過去の治水投資が実を結んだ神奈川県
      「狩野川台風の再来」で起きたこと
      大阪湾三大水門等による高潮防御
      下水道施設で内水氾濫抑える
      土石流災害の防止
      避難により土砂災害から命を守る
      ハード・ソフトの一体化で効果
      鉄道の計画運休で安全を確保
      機関連携した広域避難を実現
  • ●今後進めるべき取り組み
      「流域治水」への転換
      越水しても粘り強い堤防
      〔コラム〕「基礎地盤及び堤体との一体性及びなじみ」の意味
      既設ダムの有効活用
      下水道の都市浸水対策
      土地の使い方や建物構造の工夫
      土砂・洪水氾濫対策
      タイムライン、マイ・タイムラインの整備と実践
      国土強靱化の推進と市町村計画の策定
      地区防災計画の作成と取り組み支援
  • ●ウィズコロナ時代の対応
      パンデミックと自然災害
      新型コロナに対する建設業の取り組み
      ウィズコロナ時代の備えと課題
      〔コラム〕命と心をつなぐ「一文字15箇条」
  • ●取り組み推進のために
      治水事業予算の確保
      中長期計画の必要性
      被災・避難情報の伝え手の育成と充実
      技術の研究開発推進とその社会実装
      行政部門と研究部門の連携・協働

    5章 実現に向け総力を挙げよ

  • ●実現のための体制づくり
      「自助・共助・公助」の機能向上を
      TEC-FORCEの活動
      民間団体、企業による支援(建設産業)
      〔コラム〕最近の災害における建設産業の活躍
      〔コラム〕災害を経て進化した建設産業の防災体制
      民間団体、企業による支援(運輸産業)
      水害から地域を守る「水防団」
      災害に屈しない地域を目指す自助の動き