「ダム管理所長に聞く」第3回《利根川ダム上流群》

(聞き手:水源地環境センター 研究第1部 原)

■建設省初のダム統合管理事務所

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第3回は、流域面積日本一の利根川において、直轄の3ダム、水資源機構の4ダム、計7つのダムを統合管理する利根川ダム統合管理事務所の小宮所長にお話をお聞きします。小宮所長どうぞよろしくお願いします。

でははじめに事務所のご紹介をお願いします。

図―1 利根川流域の治水・利水施設

(小宮所長)
利根川ダム統合管理事務所は、昭和39年4月、藤原ダム管理所、相俣ダム管理所、利根川上流調査出張所(本局の出張所)を統合して発足した建設省初のダム統合管理事務所です。

現在は、国土交通省が管理する藤原ダム、相俣ダム、薗原ダムの操作・維持管理、と水資源機構が管理する矢木沢ダム、下久保ダム、草木ダム、奈良俣ダムとの 操作の調整(統合管理)を行っています。

新年度には、管理に移行する八ッ場ダムの操作・維持管理も担当する予定です。また、ダム管理と併せて利根川上流部(八斗島(左岸:群馬県伊勢崎市、右岸:埼玉県本庄市付近)から上流)の河川総合開発の調査を行っているほか、既存ダムの有効活用として、「藤原・奈良俣再編ダム再生事業」(令和元年度実施計画調査、令和2年度から建設事業)に取り組んでいます。

■流域面積日本一の利根川の治水・利水の要

(小宮所長)
利根川は日本一流域面積が広い河川で、流域には下流から、利根川河口堰、北千葉導水路、渡良瀬遊水池総合開発(渡良瀬貯水池)、利根大堰、それに上流ダム群というように様々な治水・利水施設があります。(図-1)

これらの施設を年間365日運用し、常日頃から利根川の流量が適正になるようにしています。

当事務所では、日々、利根川上流ダム群(矢木沢、藤原、奈良俣、相俣、薗原、下久保、草木ダム)それぞれのダムからの放流量を決め、水資源機構や水力発電所を管理する電気事業者と連携しながらダムの操作を行っています。今夏は、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を迎え、利根川上流ダム群は、首都圏の水ガメとして安定供給に万全を期します。

■台風19号では水位を1m低下

図―2 関東地整記者発表資料(11/5時点)

(小宮所長)
利根川は、利根川本川、赤谷川、片品川の奥利根流域、吾妻川、神流川、渡良瀬川流域に区分でき、それぞれ年間を通じた気候、雨の降り方が違います。洪水時には各流域の雨量や流量を観測・予測し、各ダムの力を最大限に発揮させる様努めています。

・「令和元年東日本台風」(台風第19号)では、八斗島地点において、試験湛水中の八ッ場ダムを含む上流ダム群により、この地点水位を推定で最大1m低下させることができました。(図-2)

また、河川総合開発の調査として、八斗島上流の49箇所で雨量、16箇所で水位、9箇所で流量観測を行っています。地球温暖化による気候変動が進行しているなか、今後の治水・利水を検討するうえで基礎的なデータとなるこれらの調査は重要であると考えています。


■当時の技術を駆使したダム群

(WEC)
それぞれのダムの特徴を紹介して頂けますか?

(小宮所長)
まず、藤原ダムは、利根川上流ダム群で最初に完成したダムです。昭和27年建設が始まり、昭和33年に竣工しました。

相俣ダムは、昭和28年群馬県が建設に着手。試験湛水中に発生した左岸台地部での漏水対策工事を実施するため、建設省に移管し、昭和34年に完成しました。

薗原ダムは昭和34年から建設が始まり、昭和41年に完成しました。スキージャンプ式の放流設備が特徴のダムです。

矢木沢ダム、奈良俣ダム、下久保ダム、草木ダムは、首都東京を含む関東地方の安定した水資源を確保するため、水資源開発公団(現、水資源機構)が、利根川上流部に建設しました。

いずれのダムも当時の技術を駆使して建設されており、藤原ダムの国内最大規模の最大放流量100㎥/sのホロージェットバルブ(写真-1)、相俣ダムの漏水対策工事として設置した天端長さ約350m、高さ約90mの大規模な遮水壁(写真-2)、薗原ダムでは、巡視船を格納する設備として建設省関東技術事務所が直営で製作した揚船設備(インクライン)(写真-3)などダム技術の進化を見るのも面白いです。

(写真-1)ホロージェットバルブ吐出し口の口径4.4m
(藤原ダム)

(写真-2)施工中の遮水壁。運用開始後、大部分が水面下
(相俣ダム)

(写真-3)関東技術事務所製作の揚船設備(インクライン)(薗原ダム)

■地域と協力した水源地の活性化

(WEC)
地域との関わりについて力を入れておられることがあればご紹介下さい。

(小宮所長)
地域と協力して水源地の活性化にも力を入れています。近年、各ダムで行われている放流イベントは集客に効果的で、実物が稼働する放流は、見せ場の一つとなっています。

薗原ダムでは、観光協会、商工会や地域の人たちが中心となりダム天端で実施する「薗原湖堰堤まつり」が行われ、これにあわせて薗原ダムの点検放流を実施しています。(写真-4)令和2年は5月23日、24日に実施予定です。*

藤原ダムでは、「みなかみ3ダム春の点検大放流」として、矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダムで点検放流を行います。令和2年は5月16日、17日に実施予定です。*

*新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、令和2年の「薗原湖堰提まつり」及び「みなかみ3ダム春の点検大放流」は中止になりました。

放流イベントには、近隣の方はもちろん、遠方からも見学に来ていただいています。年齢層も幅広いダムのファンの方が増えています。

この方たちが、ダムに来ていただけることは、我々の励みになっています。

相俣ダムは管理開始60年を迎えた記念に60年の還暦に因んで赤い枠のダムカード3枚セットとホルダーを配付しています。(3月31日まで)*

*新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、ダムカードの配布は一時休止しております。「相俣ダム60周年記念カード」は、配布再開後、期間を延長して配布する予定です。
「相俣ダム60周年記念カード」は、期間を延長して配布しています。

(写真-4)薗原ダム点検放流状況

■水害から命を守る100万人プロジェクト

(WEC)
治水について多くの人に学んでいただくことも重要ですね。

小宮所長

(小宮所長)
関東地方整備局では、河川・防災学習拠点(全27施設)を連携させ、来館者数を令和元年度に100万人とすることを目指しています。

当事務所では、「利根川ダム資料室」(利根川ダム統合管理事務所構内)、「相俣ダム資料室」(相俣ダム管理支所)の2箇所がこのプロジェクトに参加しています。是非、多くの皆様に利用して頂きたいです。*

(WEC)
最後になりますが、小宮所長は、ダム建設や管理に造詣が深くていらっしゃいます。ダム・水源地域に関して一言お願いします。

(小宮所長)
ダムによる治水・利水の効果は、多くの方々の協力によって成り立っています。

特に、住居を移転された方には、生活環境が根底から変化することになります。

水源地では、過疎化・高齢化が進んでいることも現実ですが、地域の人はがんばっておられますので、ぜひ、ダムや水源地を訪れて頂きたいと存じます。

(WEC)
本日は貴重なお話をありがとうございました。

*新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、3月16日現在、利根川ダム資料室・11月1日現在、相俣ダム資料室は休館しています。また、ダムカード配布も一時休止しております。