「ダム管理所長に聞く」第28回《御母衣ダム》

(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第28回は、岐阜県にある電源開発(Jパワー)御母衣電力所 所長代理の頭本さんにお伺いしました。

頭本さん、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに庄川における電源開発の経緯について教えて下さい。

■庄川水系における電源開発

(頭本所長代理)
緑深い山々を抜けて流れ出る庄川は、岐阜県の烏帽子岳(えぼしだけ:標高1,625m)を源流として、飛騨山地から数々の支川を併せて日本海富山湾に注ぐ、流路長115kmの一級河川です。この庄川水系の上流域に位置する御母衣ダム周辺は、貴重なブナの原生林や野生動物たちが生息する霊峰白山(標高2,702m)をはじめ、岐阜県指定の名勝白水滝(しらみずのたき)、水芭蕉で有名な山中峠等、すばらしい景色が広がる自然の宝庫であり、また、世界遺産白川郷合掌集落で広く知られている歴史豊かな地域でもあります。

戦後、急速な工業化が進むなかで電力需要が増大し、関西方面への電力供給のために目をつけられたのが庄川水系であり、この水系における電源の開発は、大正15年(1926年)、白山水力電気が庄川上流部の支流大白川下流部に建設した水路式の平瀬発電所にはじまり、昭和5年(1930年) には当時としては我が国屈指の大発電所である調整池式の小牧発電所が庄川水力電気により完成。さらに1ヶ月おくれて昭和電力が祖山発電所を建設し、昭和14年(1939年) には富山県が最下流に中野発電所を、昭和17年(1942年) には日本発送電が小原発電所を完成させました。戦後は、関西電力(株) によって昭和26年(1951年) に成出発電所、昭和29年(1954年) に椿原発電所、昭和31年(1956年) に鳩谷発電所が次々に建設されました。しかし、これらの発電所はいずれも融雪期の水量を十分に蓄えることができる貯水容量を有しておらず、増大する電力需要にこたえるためには、庄川の最上流部に年間を通じて流量を調整する大貯水池式発電所を建設し、あわせて下流発電所の渇水期の出力を増加させることが切望されることとなりました。

御母衣ダムは、こうした庄川開発の流れのなかで、古くは昭和電力により昭和2年(1927年) 頃から構想され、昭和22年(1947年) には日本発送電が実地調査を行っており、この計画は、関西電力(株)、更に電源開発(株) へ引き継がれました。昭和27年(1952年) 9月に電源開発促進法が制定され、これに基づき9月16日に電源開発株式会社が発足し、同月末に開かれた第3回電源開発調整審議会において着工地点として決定され、昭和32年(1957年) 6月本工事に着手、以来工事は着々と進行し昭和36年(1961年) 1月に16万kWの運転を開始、融雪期の満水を待って同年5月に全出力21万5千kWの運転を開始しました。

庄川流域は、雪を含む降水量が多く、また中上流部は河床勾配が1/30~1/80、下流部でも1/200程度の急流のため水力発電に適しており、現在18のダムと28の水力発電所があり、それらの最大出力は約100万kWの電力を生み出す貴重な恵みの河川となっています。

庄川流域のダムと発電所

■4つのダム、3つの発電所、を管理

流域概要(Jパワー管理ダム周辺)

(WEC)
御母衣電力所管内ではどのような施設を管理しているのでしょうか?

(頭本所長代理)
御母衣電力所では、御母衣、御母衣第二、尾上郷の3つの発電所、御母衣ダムを始めとした4つのダム、21地点の渓流取水設備を管理しています。

御母衣ダムの管理を語る頭本所長代理


御母衣電力所管内の発電所およびダム

■奥只見、田子倉とならび「O・T・M」と称されるJパワーを代表する大規模水力発電所

(WEC)
それでは管理されている4つのダム、3つの発電所の内、御母衣ダムと御母衣発電所についてお話を伺いたいと思います。

(頭本所長代理)
御母衣発電所は、昭和36年(1961年) 1月に運転開始したダム水路式の発電所で、御母衣ダム自己流域の他、2地点の取水設備から貯水池へ注水した水ならびに御母衣第二発電所および尾上郷発電所からの発電放流水をダム左岸の本取水口から導水し、2台の発電機によって最大出力21万5千kWの電力を生み出しています。Jパワーでは同時期に開発した奥只見(昭和35年運転開始、最大出力56万kW)・田子倉(昭和36年運転開始、最大出力40万kW)・御母衣発電所を「O・T・M」と呼び、御母衣発電所はJパワーを代表する大規模水力発電所の一つです。

■20世紀のピラミッドと形容された日本初の大規模ロックフィルダム

(頭本所長代理)
次に御母衣ダムですが、堤高131m、堤頂長405m、堤体積795万m3、洪水吐ゲート2門の傾斜土質遮水壁型ロックフィルダムです。庄川本川の最上流部に位置する日本初の大規模ロックフィルダムで、建設当時は「20世紀のピラミッド」と形容されました。総貯水容量(370,000千m3)は全国で5番目と屈指の規模を誇ります。

御母衣ダム建設にあたり、岩盤が弱い・近傍で岩や粘土の材料がとれコンクリートより経済的であったことからダムの型式はロックフィルとなりました。また、多雨地帯に属し、冬期は積雪のため、すべてのダム盛立て作業を中止しなければならないという気象的悪条件下にあったことから工期短縮のため傾斜土質遮水壁型が採用され、アメリカから超大型の建設機械を輸入するなど、当時の最新技術を積極的に導入して3年半で完成しました。

御母衣ダム建設工事状況

■庄川流域の安全・安心に向けた取組み

(WEC)
近年気候変動の影響か全国各地で想定を超える豪雨災害が頻発していますが、御母衣ダムなどの管理において変化はありますか?

(頭本所長代理)
近年、各地で異常降雨が記録されていますが庄川水系も例外ではありません。平成30年(2018年) 7月豪雨では幸い下流被害はなかったものの、ダム放流量は既往3番目の規模の出水となりました。このときのダム放流では、下流域の皆さまの避難も視野に入れ、自治体との情報交換を密にとりながらダム放流量の調整を行いました。

Jパワーでは庄川流域の安全・安心のため、以下のような取組みを行っています。

(1)ダム放流に対する理解促進およびダム情報の公開

◆流域住民の皆様との懇談会に参加
流域自治体が主催し定期的に開催されるダム放流防災懇談会に参加し、流域の皆様に当社が管理するダムの施設概要や利水ダムの特徴・操作方法などの説明を行い、ダム放流に対する理解促進を図っています。

◆ダム情報の公開
国土交通省のホームページ「川の防災情報」において、御母衣ダムの水位、流入量、放流量の情報を公開しています。

(2)庄川水系治水協定の締結

Jパワーは、令和2年(2020年) 5月、河川管理者である国土交通省 北陸地方整備局ならびにダム管理者および関係利水者と庄川水系における治水協定を締結しました。本協定の目的は、大規模な洪水が予測された場合、既存の多目的ダムに加え、発電ダムでも利水容量の一部を事前放流し、空き容量を確保することでダムに流入する洪水をこれまでより多く貯留し、ダムからの放流量の低減を図り、流域の安全・安心のために治水協力を行うものです。

■Jパワーの理念を具現化し象徴するシンボル「荘川桜」

(WEC)
御母衣ダム周辺の地域の魅力などを教えていただけますか?

(頭本所長代理)
まず荘川桜ですが、御母衣ダム建設中にこの地を訪れた高碕達之助(Jパワー初代総裁)が、「水没によってふるさとを失う人々の心のよすがに」との想いから、水没地外への桜の移植を決断し、多くの関係者の協力を得て世界に類を見ない世紀の大移植を実現させたものです。この模様は平成14年(2002年) 6月11日放映の「NHKプロジェクトX:桜ロード巨木輸送作戦」でも取り上げられました。

移植された桜は、後に「荘川桜」と名付けられ、半世紀以上にわたり建設当時の想いを込めて地域の方々と共に大切に守っています。荘川桜は、『エネルギーと環境との共生』、そして『地域の信頼に生きる』という理念を具現化し象徴しているJパワーのシンボルであり、いつまでも咲き続けることができるよう大切に守り続けていくことが私たち御母衣電力所の使命であると考えています。

荘川桜

荘川桜歌碑(表面)

桜を見守る歌碑の表面には、高碕初代総裁の
「ふるさとは 湖底となりつ うつし来し この老桜
 咲けとこしへに」の歌がきざまれています。

荘川桜歌碑(裏面)

■世界遺産 白川郷合掌造り集落

(頭本所長代理)
次に白川郷合掌造り集落です。平成7年(1995年) に世界文化遺産に登録された白川郷合掌造り集落は、今でも大小100棟余りの合掌造りが現存しています。山間に位置していることから四季折々の姿を楽しむことができます。集落内には合掌民宿もあり、実際に合掌造りに宿泊することもできます。

また、白川郷では毎年、9月の終わりから10月にかけて、五穀豊穣・家内安全・里の平和を山の神様に祈願する「どぶろく祭」が盛大に行われます。白川村の各地区の神社で、御神幸、獅子舞、歴史と民話にまつわる民謡や舞踊などの神事が繰り広げられる、歴史と伝統ある白川郷ならではの祭りであり、その名のとおり、祭礼に神酒として「どぶろく」が用いられ、人々にも振る舞われるのが最大の特徴です。

白川郷合掌造り集落
[写真提供:岐阜県白川村役場]

どぶろく祭り
[写真提供:岐阜県白川村役場]

■手付かずの大自然が広がる白山国立公園

(頭本所長代理)
続きまして、白山国立公園は手付かずの大自然が広がる国立公園で、近くには軽食を食べることができる「白山湖畔ロッジ」や「大白川露天風呂」、エメラルドグリーンに輝く秘境の絶景としてテレビなどで紹介されることも多い「白水湖(大白川ダム)」、ブナの原生林でキャンプができる「白山ブナの森キャンプ場」、白川郷の名前の由来ともなったと伝えられている「白水滝」などがあり人気の観光スポットとなっています。

また、サップやカヌーなど大自然を満喫できる白水湖でのアクティビティ(予約方法等の詳細は白川郷観光協会ホームページを参照ください)にも近年多くの方が訪れています。

白水湖
[写真提供:岐阜県白川村役場]

白水滝
[写真提供:岐阜県白川村役場]

■平瀬温泉郷

(頭本所長代理)
また平瀬温泉郷は、大白川ダム貯水池に隣接する大白川源泉地から温泉を引いている旅館・民宿が多く、天然温泉に入浴することができる温泉街です。「しらみずの湯」という日帰り温泉もあります。

平瀬温泉街
[写真提供:岐阜県白川村役場]

しらみずの湯
[写真提供:岐阜県白川村役場]

■ダムカードと発電所見学証明書

(頭本所長代理)
御母衣電力所では、御母衣ダムと大白川ダムのダムカードを発行しています。

御母衣ダムのダムカードは御母衣電力所向いの「MIBOROダムサイドパーク」にて、大白川ダムのダムカードはダム近傍の白山湖畔ロッジにて配布しています。大白川ダムへのアクセス路である県道451号線白山公園線は冬期通行止めとなるため大白川ダムのダムカードは配布期間が夏場の数カ月間限定となっており入手困難なレアなカードです。(配布情報はJパワーホームページをご確認ください)

また、令和4年(2022年) に御母衣発電所見学証明書を発行し、御母衣発電所を見学された団体等の方に見学記念として配布しています。本年より中電PG(株) &濃飛バス(株) 主催のバスツアー(不定期)の見学も受け入れておりますので、興味のある方は是非ご参加ください。

御母衣ダムカード

大白川ダムカード

御母衣発電所 見学証明書カード

御母衣電力所(手前)とMIBOROダムサイドパーク(奥)

(WEC)
御母衣ダムは、周辺観光地も含めて魅力満載ですね。

最後に一言お願いできますか?

■各ダム・各発電所の施設の能力を最大限に生かし、電力の安定供給を目指して

御母衣ダムを背景にした頭本所長代理
(30周年記念公園にて)

(頭本所長代理)
昭和36年(1961年) 1月に御母衣発電所が運転を開始して以来、60年以上の長きにわたり、Jパワーはこの庄川流域で発電事業を継続してまいりました。これも発電所運営について地域の皆様、地元行政、関係各機関のご理解、ご協力、ご指導があったからこそだと思います。これからも、御母衣電力所が地域に末永く信頼されるよう電力所員一体となってダムの維持管理および運用に取組み、流域の安全・安心の確保に努めていきたいと思います。

また、昨今の豪雨災害の頻発に伴う利水ダムの治水協力や地域自治体への防災・減災協力など、ダムに対する周囲の期待や要望は刻刻と変化していきます。御母衣電力所としては地域との共生や環境との調和を図りつつ、管内の各ダム、各発電所の能力を最大限に生かし、電力の安定供給に貢献できるよう、設備の保守管理に努めてまいります。


(WEC)
お忙しいところ、ありがとうございました。


■電源開発株式会社HP: https://www.jpower.co.jp/

■ダムカード配布案内:(御母衣ダム)https://www.jpower.co.jp/damcard/miboro.html
(大白川ダム)https://www.jpower.co.jp/damcard/ooshirakawa.html