(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第45回は、庄内川水系小里川に建設された小里川ダムを管理する中部地方整備局庄内川河川事務所小里川ダム管理支所の神村支所長にお伺いしました。
神村支所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに小里川ダムの概要についてご紹介下さい。

■20周年を迎える都市部に近接した地域に開かれたダム

(神村支所長)
小里川ダムは、庄内川河口から約74km上流の土岐川に合流する小里川に建設された堤高114m、堤頂長331.3m、総貯水容量1,510万m3の重力式コンクリートダムで、洪水調節、流水の正常な機能の維持、発電を目的とした多目的ダムです。

ダムの管理開始は平成16年で、この3月でちょうど完成20周年の節目を迎えました。

小里川ダムへのアクセスは、車を利用した場合、名古屋市の中心街より高速道路を利用して約1時間30分、最寄の「中央自動車道 瑞浪IC」から約20分と都市部に近いダムです。

小里川ダムは「地域に開かれたダム」に指定され、自然を活かしたレクレーション活動の場として整備されるとともに、小里川ダム建設事業に併せて「道の駅おばあちゃん市・山岡」が整備され、道の駅と併せて多くの人にお越しいただいています。

位置図

小里川ダムと道の駅

(WEC)小里川ダムの建設の経緯についてご紹介いただけますか?

■大都市名古屋などの洪水被害の軽減を主目的に建設された多目的ダム

(神村支所長)
小里川は、庄内川上流部の土岐川に流れ込む河川です。ちなみに庄内川は、岐阜県内では土岐川と呼ばれ愛知県に入って庄内川と名を変えます。庄内川流域は中部地方最大の都市である名古屋市の他、愛知県内では春日井市、尾張旭市や陶都の瀬戸市、岐阜県内では多治見市、土岐市など都市化が著しい地域です。これらの地域の洪水による浸水被害を防ぐため、洪水調節機能のあるダムを建設することとなり小里川ダムが建設されました。


昭和34年9月
河口付近の破堤状況

昭和47年7月
土岐市内の浸水状況

平成12年9月
東海道新幹線庄内川橋梁付近

(WEC)
小里川ダムでは、地域活性化にむけて非常にユニークな取り組みをされていると伺っています。
今回は地域活性化につながる取り組みに絞ってお話をお聞きしたいと思います。
冒頭で「地域に開かれたダム」、「道の駅おばあちゃん市・山岡」のご紹介がありましたが、詳しくご紹介いただけますか?

■堤体内部、ダム湖一周を散策できる地域に開かれたダム

(神村支所長)
小里川ダムは、平成9年に「地域に開かれたダム」に指定され、自然を活かしたレクレーション活動の場としてダム周辺も整備されました。管理支所や道の駅を起点としてダム湖を一周する「おりがわ湖ウォーキングコース」は、ダム堤体、展望公園、旧発電水路や原石山跡地などを巡ることができます。
また、小里川ダムではダムの構造や役割について理解して頂くため、堤体内部を一般見学者の方々に開放しています(月曜日及び年末年始を除く)。ダム堤体内部には、展望テラス、ギャラリー(監査廊)などがあり、ダム直下からはダムを見上げることも出来ます。

ギャラリー(監査廊)

展望テラス

展望公園

旧発電水路

■ダム建設にあわせて整備された巨大水車がシンボルの道の駅

直径24mの巨大水車

(神村支所長)
小里川ダム建設事業に併せて、「道の駅おばあちゃん市・山岡」がダム湖畔に整備されました。

この道の駅には、直径24mにもなる日本最大級の木製水車が設置されています。小里川ダムによって水没した地域に多くの水車があったということから、この地域の歴史を後生に残すべく、ダム完成を機に造られました。

ダム管理支所に隣接した「道の駅おばあちゃん市・山岡」の観光入込客数は、コロナ禍の令和3年でも50万人を超える人気です。「道の駅おばあちゃん市・山岡」の従業員約40名は全員が地元住民であり、道の駅に物産を納入する生産者が地元を中心とする450名以上を数えるなど、地域振興に寄与する重要な拠点となっています。

また、この道の駅では、水源地の特産品である細寒天を用いたダム商品の販売を開始しており、今後も新たな商品を開発中である等、ダムと道の駅が協力し賑わいを創出するよう、努力を重ねています。

物産販売のようす

細寒天を用いて作られた
小里川ダムダム汁ゼリー(左)と小里川ダムの彩り(右)

(WEC)
小里川ダムは令和6年3月に完成後20年を迎えるということで、様々な取り組みをされているそうですが、これらについてご紹介下さい。

■「地域防災活動の活性化」と「にぎわいの創出」を広報活動の2本柱に

(神村支所長)
小里川ダムでは、「地域防災活動の活性化」と「にぎわいの創出」を広報活動の2本柱と捉え、地域と協働して地域活性化に取り組んでいます。

■地域防災活動の活性化への取り組み

(神村支所長)
地域防災活動の活性化への取り組みとしましては、地元自主防災組織等と連携し、「水害リスクのパネル展」や下流域における「マイ・タイムライン机上訓練」等に、関係機関・地域と密接に調整を図りながら、積極的に取り組んでいます。

水害リスクのパネル展

マイタイムライン机上訓練

また、防災広報の取り組みの一環として、ダム施設に関する見学会を開催しています。見学会では、堤体内監査廊やゲート室等を案内し、洪水調節におけるダムの機能や日頃のダムの取り組みについて説明しています。

見学会は令和元年、2年度はコロナ禍により中止していましたが、令和3年度より再開し、ダム周辺地域の小学校や地域づくり協議会等の見学者を受け入れています。

ダム施設見学会での小学生、地域づくり協議会への説明状況

■賑わいの創設への取り組み

(神村支所長)
賑わいの創設への取り組みとしましては、中心的なイベントである「秋の小里川ダム湖周ウォーキング」に加えて、「20周年記念イベント」に向けた企画・提案等を実施しています。

「秋の小里川ダム湖周ウォーキング」は、年1回秋季に開催されているイベントで、令和3年度より地域の代表者が参加して結成された実行委員会により運営されており、ダム管理支所は当日のダム堤体内見学やホームページを通じた広報など、後援・推進を図っています。このイベントは参加者を200名程度とした事前申し込み制としており、案内人が同行し、地域の自然、文化、伝統と触れ合うことのできる小里川ダム水源地域の重要なイベントとなっています。

開会式での参加者の皆さん

各班リーダーによる案内

堤体内特別開放

湖周ウォーキングの完歩賞のカルテットカード(R3年)

参加者限定ポストカード(R5年)

(神村支所長)
また、ダム事業に対する関心を持っていただくことを目的に小里川ダムのライトアップイベントを実施しています。

ライトアップ当日は、1Fふれあい館の開館時間を延長し、夜間にダム内部を見学することができるほか、隣接する「道の駅 おばあちゃん市・山岡」でもイルミネーションを行っています。

とても評判がよくて、京都、大阪、滋賀、神奈川等、中京圏以外からもお越しいただいています。

ライトアップイベント告知ポスター

ダム直下からの撮影に興じる参加者の皆さん

ダム湖に映える幻想的な風景

ライトアップカード

(WEC)20周年に向けて新たに考案された取り組みについてご紹介下さい。

■“ハタチの小里川ダム”スタンプラリー 

(神村支所長)
小里川ダムでは、完成20年を迎える令和5年度の8月1日から11月26日の約4ヶ月間、記念イべントとして「”ハタチの小里川ダム”スタンプラリー」を開催しました。本イベントでは、景品交換のためのスタンプの換わりに配布したスタンプシールが1,400枚以上配布され、参加した店舗からは「遠方からのお客さんがたくさん来てくれた」「参加してよかった」などの声が多く聞かれ、小里川ダムへの関心の向上に加え、参加者のSNSによる拡散等の波及効果もあり、地域振興への効果が得られたのではないかと考えています。

スタンプラリー協力店舗位置図

スタンプラリーの景品(抽選)のダムレアグッズ

グッズを手にした参加の皆さん

■さらなる関心向上のための「小里川ダム御朱印(ダム印)」

(神村支所長)
また、見学者へのアピールのため、令和4年より見学者への「小里川ダム御朱印(ダム印)」の配布をはじめました。この御朱印は、ダムカードのようにダム諸元等が裏面に記載されている言わば大判のダムカードのようなものとなっており、特製の朱印を押印いただくと完成する形にしています。
X(旧ツイッター)やInstagramに掲載いただく等、少しずつ関心が高まっていると実感しています。

小里川ダム御朱印案内ポスター

小里川ダム御朱印(ダム印)

■ダム堤体内での日本酒貯蔵

(神村支所長)
さらに周辺地域の地域振興の一助となることを目的として、ダムが新たな地域特産品を生み出せないかと考え、基礎自治体である瑞浪市及び恵那市と調整を重ね、結果、令和4年度より、瑞浪市を通じて市内酒造会社2者による日本酒の貯蔵・熟成を実施しています。

令和5年には、同様の取り組みを行っている小里川ダム周辺の丸山ダム、矢作ダム、阿木川ダムとともに、名古屋市中心部で行われたダムSAKEフェスタに参加し、貯蔵酒のPRと併せてダムのPRを行いました。

貯蔵の様子

ダムSAKEフェスタ

地下街のPRブース

(WEC)
今後はどのような取り組みをお考えでしょうか?

■地域・学校・官が一体で立案及び実践する取り組みに向けて

(神村支所長)
令和5年度より 地域振興施策の一環として、地域・学校・官が一体で立案及び実践する取り組みを実施しています。この中で地元の 麗澤瑞浪 れいたくみずなみ 中学・高等学校は水源地の特産品である細寒天を用いた新商品の開発、中京高等学校はダム広報業務の実践体験を実施いただいています。この記事が記載される3月には、 麗澤瑞浪 れいたくみずなみ 中学・高等学校の開発によるチーズケーキやゼリー、また6月頃にはジャムが販売される予定ですので楽しみにして下さい。

中京高等学校は「CHUKYO SUPPORTERS」を設立して、「ダム紹介動画の製作」「ライトアップイベント紹介動画撮影への出演」「里山美化活動」「スタンプラリーイベント景品交換窓口作業のサポート」「マイタイムライン机上訓練及び学生版湖周ウォーキングの開催」と広報活動に励んでいただいています。

さらに道の駅20周年イベントと一体となったイベントを模索しているところです。


中京高等学校の応援ロゴ


麗澤瑞浪中学・高等学校開発のチーズケーキ(左)とゼリー(右)
小里川ダムや道の駅の水車をイメージして作られました

3月に行われるスイーツ限定販売ポスター

(WEC)
ところで、ポスターなどに可愛い女の子が描かれていますが、これは小里川ダムのキャラクターなんですか?

■所長自らが描いたイメージキャラクター「おりか・りお」ちゃん

(神村支所長)
完成後20周年を迎えるにあたって、小里川ダムを紹介するため何かイメージキャラクターが必要と考え、予算軽減を目的に自分で描きだしたキャラクター「おりか・りお」ちゃんです。

実は私がデザインして描いてまして、小里川の水力発電が大正時代にはじまったことや、恵那市明智町の「日本大正村」が近いことから大正時代の衣装としました。

(WEC)
すごいですね。では最後に一言お願いいたします。

■地元学生の若い知恵と行動力とともに目指す地域振興


神村支所長

(神村支所長)
本日ご紹介いただきましたとおり、小里川ダムでは、令和6年3月末で完成20年を迎えるにあたり様々な取り組みを実施してまいりました。

小里川ダムは地域の方々からのご協力により、平成9年に「地域に開かれたダム」の指定がなされ、ダム建設ともに周辺設備を整備しつつ、ダム管理支所の1Fや堤体の内部を一般開放する取り組みを実施してきました。

完成20年の節目にダムが地域振興の一助となる活動が出来ないものかと考え実施してきたこれらの取り組みは、我々も地域も「地域に開かれたダム」について共に考える良い機会となったと考えており、好意的なご感想も多くお寄せいただくなど、一定の効果が得られました。

今後、引き続き地元学生の若い知恵と行動力をお借りしつつ、更にダムが地域振興へ力を発揮出来るよう取り組んでまいりたいと考えております。

■関連リンク

○中部地方整備局庄内川河川事務所小里川ダム管理支所
https://www.cbr.mlit.go.jp/shonai/origawa/index.php