年頭のご挨拶

一般財団法人 水源地環境センター
理事長  平井 秀輝

新春を迎え、皆さまにはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。平素より当センターの活動に対し、格別のご理解とご協力を賜り、心より御礼申し上げます。

さて、ここ数年は環境行政のいくつかの節目を迎えています。

まず、昨年は長良川河口堰の本格運用開始から30年を迎えました。長良川河口堰は本格運用開始以降、長良川の河川環境の保全を図りつつ、長良川河口堰がその本来の目的を達成できるよう、学識経験者の指導・助言を得ながら環境の変化を把握し、環境保全対策を行い、その効果を確認するための様々な調査を行ってきました。
現在、環境に配慮した操作として、魚類の遡上を考慮して堰の上下流の水位差を少なくしたり、稚アユを魚道へ誘導するために、川岸寄りのゲートからの放流量を増やしたりといったきめ細やかな操作に努めています。これらにより、建設中には生態系への懸念の声がありましたが、次の世代により良い流域環境を引き継ぐための成果を着実にあげています。

次に、昨年、河川水辺の国勢調査の大きな節目として30年余のとりまとめ結果が発表されました。ダム湖が様々な生き物の「新しいすみか」として利用されていることがわかってきました。回遊魚のアユやサクラマスが陸封され、海や湖と同様に大型個体が生息するとともに、湖岸の水辺環境では湿地環境が成立し、トンボやゲンゴロウなどの貴重種が生息するようになりました。

さらに、魚類を捕食する猛禽類のミサゴやカモ等水鳥が生息し、鳥類を餌としてダム堤体も利用するハヤブサが繁殖するなど、ダム湖環境が多様な生態系機能を有していることが明らかとなりました。ダム湖環境は、従来の環境影響の低減措置を中心とした「代償(mitigation)」から積極的に環境を創出する「創造(creation)」にも軸足を置く時代になってきたとも言えるでしょう。また、来年は、河川管理の目的に「河川環境の整備と保全」が盛り込まれた河川法改正及び応用生態工学会(旧応用生態工学研究会)の設立から30年の節目の年を迎えます。この節目の年を目前に、本年はセンターとしても各種成果を取りまとめ、レビューしていきたいと思います。

さて、世界の環境行政に目を向けてみますと、こうした環境との共生の潮流は、いまや世界的な動きとなっています。

昨年、世界大ダム会議の中国成都大会に参加しましたが、中国は、現在、大ダム保有数が世界1位であり、保有数約24,000基を数えるとともに今や世界のダム技術を先導するダム大国です。このため、開発一辺倒との印象が強いかもしれませんが、2012年、「エコ文明建設」を国家戦略に位置づけた以降、国を挙げて、様々な環境対策を打ち出しています。ダム周辺の湿地再生や魚道整備、流域全体での生態修復プロジェクトを推進したり、近年では長江流域での「生態補償制度」により、主に地方政府間で行われる河川上流域に対する下流域の補償等のほか、排出権取引、グリーンファイナンス等の取引も推進しています。

また、中国は、国連の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の議長国として、議長団会議を40回近く開催し、枠組み作業部会会議を主宰し、「2030年までに地球上の陸域、海洋・沿岸域、内陸水域の30%を保護する」という画期的な合意をもたらしました。中国は自らの取組として、15億元(約320億円)を拠出し、昆明生物多様性基金を設立するとともに、初の国家公園を設立するなどして、トキ、長江スナメリ、チベットカモシカ等を増加させ、その実践の有効性を世界に証明し、希望を与えています。世界自然保護基金(WWF)は、中国のこうした取り組みを「野心と実務のバランスを備えた模範」と評価しています。日本が環境先進国として歩んできた道のりは誇るべきものですが、もはやその地位に安住する時代ではありません。近隣諸国への高圧的な外交手法に、中国をネガティブに受け止める向きもありますが、学ぶべき面もあります。私たちは国際的動向を冷静に受け止め、自然再生・保護に向けた制度と技術をより高度化していく必要があると感じます。

最後に、当センターが取り組んでいる環境に係る研究についてでありますが、節目を迎えた研究があります。

当センターが事務局を務めている「水源地生態研究会」は、今年で19年目を迎えました。研究会では、これまでに得られた成果をいくつかの書籍や報告書等としてとりまとめ、流域管理の新たな道を提案してきました。現在、研究会は5か年の研究タームのとりまとめを進めており、今春にはその成果を報告書としてまとめる予定です。

また、当センターでは、研究助成事業「WEC応用生態研究助成」を通じて様々な研究者を支援してきていますが、本事業も今年で21年目を迎えました。これまでに「ダム・堰によって孤立化した水生生物の集団健全性の遺伝子診断手法の開発」、「底質中鉄の化学形態とリン酸保持機能に関する天然湖とダム湖の比較湖沼学的研究」など約90件の研究成果を上げています。これら研究会の活動や研究者への支援を通じて得られた成果と人材のネットワークは、今後、国内外の流域再生や水環境の創造に広く展開していくものと期待しています。当センターとしても、新たな時代に向けた連携と知の共創をさらに推進し、「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた取り組みを進めてまいります。

結びに、本年も引き続き水源地ネットを通じ、ダムや水源地域に関するタイムリーな話題や水源地域活性化に資する情報を発信するとともに、皆様の情報交換の場となりますよう努めて参ります。どうか、旧年同様のご指導、ご支援をお願いし、本年が皆さまにとって実り多く、希望に満ちた一年となりますことを心より祈念申し上げ、新年のごあいさつといたします。