(聞き手:水源地環境センター 仙台事務所 佐藤)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第56回は、北上川水系 江合川に建設された鳴子ダムを管理する東北地方整備局鳴子ダム管理所 片野所長にお伺いしました。
片野所長、どうぞよろしくお願いします。
では、はじめに鳴子ダムの概要についてご紹介下さい。

■ダムの概要

(片野所長)
鳴子ダムは宮城県大崎市鳴子温泉字岩渕の地に、昭和32年10月に完成した「複雑なカルデラ地形の地に外国の技術者を招かずに日本の技術者だけで建設した我が国初の本格的百メートル級アーチ式コンクリートダム」として、平成28年に公益財団法人土木学会から、歴史的土木構造物の保存に資することを目的とした「土木遺産」に、東北のダムとして初めて選奨された構造物です。令和9年度に完成から70周年を迎えます。

その機能は、北上川水系江合川の洪水調節、そして世界農業遺産である大崎耕土へのかんがい用水と、県内最大の水力発電施設への用水の供給となっております。
「日本の技術者だけで」の具体的なエピソードとしては、当時コンクリートアーチダムに関する設計の技術指針がアメリカ合衆国内務省開発局から発行されていたものを、この鳴子ダムの設計に携わった日本人技術者が翻訳し、単に文章を翻訳するだけでなく、理論式の一つ一つを検討し、納得のいかない点は開発局まで照会してその完璧を期し、初めて外国語での翻訳出版にこぎつけるなど、熱意と執念とで外国人技術者なしでの建設に結びつけていきました。

■建設の経緯

鳴子ダム建設前の江合川流域は、日照りが続けば、かんがい、生活用水の不足により水ケンカ、水騒動、干ばつによる凶作となり、それが台風の接近等にともない大雨が降ると、洪水氾濫、堤防決壊、土砂崩れらが発生、家屋の水没、流出、死者行方不明者が多数発生するなど、干ばつと水害とを数年ごとに繰り返すようなとても厳しい環境にあったようです。

当初は宮城県が調査し、計画した鳴子ダムでしたが、昭和22年のカスリン台風、23年のアイオン台風、24年のキティ台風、そして25年の熱帯低気圧による、いずれも大きな洪水被害が続いたことで、国(建設省)による施工へと引き継がれました。

建設時の鳴子ダム

■鳴子ダムにおける令和7年渇水について

令和7年度の渇水は空梅雨によるもので、記録的な小雨を原因とするものでした。
鳴子ダム流域の流域平均月雨量は、6月が直近10カ年平均の36%、7月が11%、8月が35%というもので、この3ヶ月間の期間総降水量は219mmと、直近10カ年平均の818mmのわずか27%相当で、直近30年間では最小でした。

雨が降らない中で、大崎耕土の水稲は7月から8月にかけて、出穂期を含む潤沢な水を必要とする時期であったことから、計画上は見込まれていない、最低水位以下の堆砂容量内に貯留されていた水を、「異常渇水補給」と称して関係者の同意を得た上で放流(補給)しました。鳴子ダムが最低水位以下の貯留水を放流したのは31年ぶり、ダム完成後3回目でしたが、その中でも最も低い水位、EL.220.86m(R7.8.27)まで放流(補給)を続けました。

この地域のかんがい用水を補給する、鳴子ダムと宮城県管理のかんがい用利水ダム、岩堂沢ダムが、両方貯留水を概ね出し切った時期が8月末という、まさにギリギリの状況であったと言えるかと思います。

R7渇水時の鳴子ダム(R7.9.9)

■地域活性化

60年以上継続されている「すだれ放流の最新情報」と地域連携

鳴子ダムでは、昭和32年のダム完成以降、気象条件等で実施出来なかった数年を除き、毎年春に、雪解け水を満水まで貯留し、最上段の非常用放流設備(クレストゲート)から放流することで、ダム堤体や周辺の地山等の挙動や安定性等安全性を確認するダム満水時放流点検である「すだれ放流」を続けております。

「すだれ放流」は、その放流される流水の様相が巨大な「すだれ」を連想させることからネーミングされたもので、高さ約80m、幅95mの流水による「すだれ」が出現し、鳴子ダムの春の風物詩として地元住民の方々を中心に親しまれているものです。

この「すだれ放流」は、ダムの運用上、この時期の数日間しか実施することが困難な貴重なものでありますことから、我々ダム管理者としましても、微力ではありますが、水源地域の活性化、にぎわいの創出に繋げたいと考えているものです。

R8すだれ放流

R8すだれ放流とダム直下ツアー

以前は昼間の「すだれ放流」のみが続けられてきたのですが、夜間の堤体表面点検のための照明器具を省電力のLEDへ設備更新したことにより、多色に発光させることが出来るようになりましたことから、近年は夜間に多色にライトアップし「レインボーすだれ放流ライトアップ」として楽しんでいただいております。

夜間の「レインボーすだれ放流ライトアップ」については、かつて初めて開催した令和4年度に、ニュース映像をご覧になった方々が多数来訪され、地域の道路が大渋滞により機能不全となる事態に見舞われたため、その後2年間は中止とせざるを得なくなっておりました。その間、地元大崎市や観光協会、商工会、まちづくりや地域活性化に取り組む地元の団体、かんがい用水や発電等に係る利水者、そして当ダム管理所など13の団体から組織される「鳴子ダムレインボーすだれ放流実行委員会」にて、再開のプランを練り、警察等の関係機関などとも調整を図って参りました。

結果、ダムの前の国道が、別途バイパスが整備されていることから交通量が少なく、生活道路として活用している住民も限定的である実態も踏まえ、この一定区間を通行止とし、麓の広いスペースを駐車場として利用し、そことダムとの間、約4km区間を専用のシャトルバスでピストン送迎し、その送迎するバス代や運営に要する費用を観覧者に負担していただく方式として再開しました。令和7年度は、「すだれ放流」3日間開催のうち、1夜だけ、試行的に「レインボーすだれ放流ライトアップ」を実施しましたが、懸念された交通渋滞も起こらず、円滑に実施できましたことから、同様の手法で、令和8年度は「すだれ放流」3日間開催のうち、3夜ともライトアップを実施しました。

R8レインボーすだれ放流ライトアップ

観覧料金を極力抑えるため、実行委員会を組織する各機関、各会等のメンバーが、駐車場整理、車両や観覧車の誘導、受付などの役割を分担しました。まだまだ広報、企画、運営、誘導など多くの面で反省点や改善点があることに気付かされましたが、警察署をはじめとした地元の多くの方々のご理解とご協力により、事故や事件、交通渋滞を含めた大きな混乱やトラブルもなく無事終了できました。

事後の実行委員会の反省会では、様々反省点を踏まえた上で、来年度も是非実施し、より多くの方々に訪れていただき、より満足度の高いイベントにしていこうとの合意がなされました。鳴子ダムをネタに、地元の様々な立場の方々が協力しあって、ともに役割を分担してイベントを盛り上げていくプロセスが嬉しいもので、毎年毎年バージョンアップしていけると良いと感じております。

しかし、この「すだれ放流」を、設定した日時から放流開始させる(ゲートを開けるのではなく、越流を開始させる)ために、ダム貯水位を数週間前から天気予報の予測降水量とにらめっこしながら徐々に水位を上げていき、直前は24時間土日も無く、デリケートな水位の運用をしているダム管理者の苦労は、携わった人にしか分からないかもしれません。(笑)

◆令和8年度に河川協力団体となっていただいた(一社)みやぎ大崎観光公社では、鳴子ダム「すだれ放流」実施時のダムを下流から見上げるツアーや、夜間のレインボーライトアップなど、鳴子ダムのPR、魅力満喫のための各種インフラツーリズムを企画、運営いただいております。詳しくはHPをご覧下さい。
■http://www.mo-kankoukousya.or.jp/

■鳴子ダム YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCAgyUSTHtOyYwSioNwbA2rg

■2026 すだれ放流

■2026 レインボーライトアップすだれ放流

■その他最近の話題や周辺観光

最近の話題としては、既に珍しい取り組みではありませんが、堤体の劣化損傷の確認や広報用動画の撮影に職員自らがUAVをフル活用するとともに、有資格職員が、他の職員の資格取得のための飛行訓練の教官役をしているといった事が紹介できるかと思います。

この老朽化した、巨大で近付ける場が限定的な構造物の点検には、大変UAVが有効です。そしてまた先に紹介した「すだれ放流」「レインボーすだれ放流ライトアップ」の紹介、PRにはUAVを用いて撮影した動画がとても効果的です。実務上UAV活用の機会が多いことと、教官役をこなせる職員がいること、そして何より屋内外とも飛行訓練が可能な場が近隣に揃っていることから、職員には僅かな空いた時間も活用しながら操縦者の育成、スキルアップに取り組んでもらっています。

UAVの活用にはダム管理上、通常の業務の中でも様々な活躍の場や可能性があることと、また今後TEC-FORCEによる災害派遣の際にも欠かせない知識、技術となることから、地の利も生かして頑張ってもらっているところです。

そしてもう一つの話題としては、鳴子ダムが来年令和9年度に完成から70年目を迎えるということで、この施設の効用や必要性、重要性、果たしてきた役割などを、きちんと流域の方々をはじめとした多くの方々に知っていただくようPRに努めなければならないと考えているところです。早く具体的な計画を詰めていかなければなりません。

周辺での観光といえば、やはり魅力ある温泉が中心だと思います。旧「鳴子町」が20年前の1市6町による「平成の大合併」で、地名が「大崎市鳴子温泉」となり、その名のとおり、温泉をウリにしたまちづくりを進めております。鳴子温泉(郷)は「川渡温泉」「東鳴子温泉」「鳴子温泉」「中山平温泉」「鬼首温泉」の5つの地区の総称であり、その広範囲なエリアから、日本一と言われる実に様々な泉質の湯を湧出し、加えて団体利用や個人利用など様々なニーズに対応出来る多種多様な宿泊施設が集まっております。昭和レトロ的な佇まいも多く残る、実に魅力的な温泉群となっております。

その多くの泉質はそれぞれが様々な疾患や傷などに効くと聞きますので、鳴子峡や鬼首のカルデラ地形など、四季折々の絶景を眺めがてら、これら温泉に浸かりに来ていただき、そのついでに鳴子ダムにも顔を出していただき、そこでは是非展示物でいろいろと知っていただき、学んでいただけると嬉しいですね。



(WEC)
本日は鳴子ダムと周辺の魅力を熱く語っていただきありがとうございます。最後に片野所長から一言お願いします。

片野所長

(片野所長)
鳴子ダムの現場に来てみると、その管理する構造物の繊細さや美しさ、工夫、老朽化の進行状況、そして建設・管理してきた先輩方の様々な取組や苦労などが肌で感じられます。加えて流域の洪水や渇水に対する脆弱性、ダムと流域、住民との歴史的な経緯や関わり、流域の方々が寄せる様々な期待などを否が応でも実感させられます。今は全身で感じるそれら様々な想いや感覚を大切にしながら、この施設を流域の方々の期待に応えられるよう機能させ、維持し、未来につないで行かなければならないとの責任を強く感じているところです。

またこのダムの設置されている大崎市鳴子温泉地区は、他の水源地域の多くがそうであるように、少子高齢化、人口減少に悩む地域であり、この施設をうまく活用し、地域の活力や賑わいの創出に役立てたい、役立てていただきたいと思っています。ダムと地域と流域とが、ともに手を携えて、協力、連携し合いながら共栄していける未来を願っています。

■鳴子ダムホームページ
https://www.thr.mlit.go.jp/naruko/index.html