「ダム管理所長に聞く」第11回《中筋川ダム・横瀬川ダム》

(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第11回は、四国地方整備局より中筋川ダムと横瀬川ダムの二つのダムを管理する渡川ダム統合管理事務所の三宅所長にお話しをお聞きしました。

三宅所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに事務所のご紹介をお願いします。

■四国の西南端、四万十川の支川中筋川に鎮座する二つの多目的ダムを管理

(三宅所長)
中筋川ダム、横瀬川ダムのある中筋川は、四国の西南部に位置し、一級河川渡川水系四万十川の一次支川で、その源を高知県宿毛市の白皇山(標高457.8m)に発し、宿毛市を経て四万十市実崎地先で四万十川と合流する、流域面積157.1km2、流路延長36.4kmの河川です。流域内には、平成11年4月から管理を開始した中筋川ダムと令和2年6月から管理を開始した横瀬川ダムがあります。

中筋川ダムは、中筋川に建設された、堤高73.1m、流域面積21.1km2、総貯水容量1,260万m3の重力式コンクリートダムで、中筋川の「洪水調節」や「流水の正常な機能の維持」、「かんがい用水」、「水道用水」及び「工業用水」を目的とした自然調節方式の多目的ダムです。

横瀬川ダムは、中筋川の一次左支川の横瀬川に建設された、堤高72.1m、流域面積11.4km2、総貯水容量730万m3の重力式コンクリートダムで、中筋川及び横瀬川の「洪水調節」や「流水の正常な機能の維持」及び「水道用水」を目的とした自然調節方式の多目的ダムです。

■4月で渡川ダム統合管理事務所発足1周年!

(三宅所長)
平成2年に横瀬川ダムが事業着手することを受けて事務所名を「中筋川ダム工事事務所」から「中筋川総合開発工事事務所」と変更して、「中筋川ダム」と「横瀬川ダム」の建設を実施して参りましたが、令和元年度に横瀬川ダム本体が完成し、令和2年度から2ダムの管理を統合的に行うこととなり、新たに「渡川ダム統合管理事務所」として設置されました。

■横瀬川ダムは昨年11月竣工式、ダム湖愛称は「もみじ湖」

(三宅所長)
令和2年11月22日に横瀬川ダム建設工事が竣工したことを記念し、コロナ禍の中、感染症対策を行いながら横瀬川ダム竣工式を開催しました。式には、国土交通大臣、国会議員5名、高知県副知事、高知県議会議長・議員、四万十・宿毛 両市長、市議会議長を含め、地元関係者等約100人が出席し、ダムの完成を祝いました。これに合わせて、新しくできた横瀬川ダム湖の愛称が「もみじ湖」に決定したことを発表しました。

横瀬川ダム竣工式

もみじ湖銘板の披露 赤羽大臣(右)と三宅所長(左)

■景観設計を導入し、ランドマークを目指した中筋川ダム

(WEC)
次にそれぞれのダムの特徴を教えていただけますか?まずは中筋川ダムからお願いします。

(三宅所長)
中筋川ダムでは、人類が作り出す構造物の中で最大級のダムへ、景観設計を導入しました。

また、地域の人々や中筋川ダムを訪れる人たちへ、身近な学習の場・憩いの場を提供し、誇りとなるようなランドマークの形成を目指したものです。

【階段状の下流面】

中筋川ダムの最大の特徴は、下流面を階段状にしたことにあります。

これは景観と機能を両立しつつ、単調になる堤体下流面にどう表情をつけるか、という検討の結果でした。越流水の勢いを押さえながら、豊かな表情をもった堤体はこうして登場し、ステップの高さは75cm、85段におよびました。

階段状の下流面 85段のステップ

【左右対称で、落ち着きのあるデザイン】

堤体中央にある2つのオリフィス吐口は、それぞれ高さが違います。違う高さの吐口を外観上 上下・左右対称に見せています。また、2つの塔は、水位計塔とエレベーター塔で、高さを合わせたデザインにして、鳥類の観察等に利用しています。

左右対称で落ち着きのあるデザイン

【ポールのない天端照明】

照明ポールが複数立ち上がると煩雑な印象となるため、ダム天端照明を一般的なポール照明から、高欄照明へ変えています。また、生態系への配慮のため、低誘虫性蛍光灯を使用しています。

ポールのない天端照明

【地域に開かれたダム】

中筋川ダムでは、平成6年度に「地域に開かれたダム」の認定を受け、地元自治体と共同で、ダム湖及びその周辺の整備を行いました。

ダム湖上流に整備された梅ノ木公園

見学者で賑わうダム見学所

■エコダムとして建設された横瀬川ダム

(三宅所長)
横瀬川ダムサイト直下に水神が宿っているという地元の信仰がある「とどろの滝」、その近くには雨乞い行事等が行われる「雨乞いの祠」があります。また、その周辺は、樹木に覆われた自然豊かな環境であり、シイ・カシなどの天然生林の他、高知県の県鳥、また国内希少野生動植物種(絶滅危惧IB類)に指定されているヤイロチョウの生息が確認されています。この様な環境下において「環境負荷を最小限とすることを目指したエコダム」として建設されました。

【世界で初めて採用された側水路減勢方式】

重力式コンクリートダムの減勢工は、ダム直下流に数十mに亘り配置されることが一般的ですが、これらの環境を保全するためにダム堤体下流面に配置した側水路と堤趾導流壁を組み合わせた減勢方式「側水路減勢方式」を世界で初めて採用し、更に発電設備・放流設備室も堤体内に設けられています。

また、2つの塔は水位計塔とエレベーター塔で、中筋川ダムと同様に高さを合わせたデザインにして、鳥類の観察等に利用出来ます。

横瀬川ダムの減勢状況

■水源地域の活性化に向けて

(WEC)
両ダム共景観や環境に大変深く配慮されておりますが、地域の活性化への取組としては、どのようなことが行われているのでしょうか?

【官学民一体となった活動支援】

(三宅所長)
中筋川ダム・横瀬川ダムなどを活用した地域振興や防災教育に関する自立的・継続的な活動を官学民が一体となり支援し、地域の活性化などを目的とした「ダム利活用調整協議会」と「ダム活元気ネットワーク」が令和元年7月に成立し、「蛍湖まつり」や「横瀬川ダムアクティブイベント」などの各種イベントを開始しています。

地元中学生による演奏会
(蛍湖まつり)

子供デイキャンプ
(蛍湖まつり)

ダム・森林探検サイクリング
(横瀬川ダムアクティブイベント)

【日本初のダム壁面クライミングやダム貯蔵どぶろく】

横瀬川ダムでは、宿毛市からの提案で日本初となるダム壁面を利用したクライミングが体験できます。

また、中筋川ダム上流に位置する三原村の地場産品である「どぶろく」を、年間通じて気温が11℃~12℃とほぼ一定である中筋川ダムの監査廊で貯蔵し、「中筋川ダム貯蔵」のラベルを付けて販売されました。

横瀬川ダムのクライミング

中筋川ダムで貯蔵されたどぶろく(三原村)

【月1回の洗浄放水、美しいライトアップ】

中筋川ダムでは、毎日定刻に噴水が上がる他、毎月第4土曜日を「なかすじ川ダムの日」と称し、ダムの階段状の下流面を洗浄するための約10分間の洗浄放水や10時から19時までの毎正時に10分間の噴水、さらにはライトアップも行っています。一度は、見学に来ていただきたいものです。

新しく出来た「もみじ湖」と「蛍湖」、そして地域が一体となり、ダムを核として益々地域活性化に向けて寄与できればと思っています。

中筋川ダムの洗浄放水

中筋川ダムのライトアップ

■平成30年7月西日本豪雨の対応

(WEC)
近年各地で経験したことのないような豪雨による災害が頻発し、ダムにおいては最大限の効果を発揮することが望まれています。特に平成30年7月の西日本豪雨では、四国でも各地で豪雨災害が発生したと記憶していますが、中筋川はどのような状況でしたか?

【中筋川ダムが55cmの水位低減効果を発揮】

(三宅所長)
平成30年7月西日本豪雨は、6月28日以降、華中から日本海を通って北日本に停滞していた梅雨前線は7月4日にかけ北海道付近に北上した後、7月5日には西日本まで南下してその後停滞しました。また、6月29日に日本の南で発生した台風第7号は東シナ海を北上し、対馬海峡付近で進路を北東に変えた後、7月4日15時に日本海で温帯低気圧に変わりましたが、前線や台風第7号の影響により、日本付近に暖かく非常に湿った空気が供給され続け、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となり、四国地方や中国地方の各地で河川の氾濫、浸水被害、土砂災害などが発生して甚大な被害が起こっています。ここ高知西南地域で多くの被害が発生しました。

中筋川ダムでも、上流域の総雨量が293mmに達し、ダムへの最⼤流⼊量131.4m3/sの約75%をダムで貯留し、中筋川の基準点である磯ノ川地点の⽔位を55cm低減(避難判断⽔位+0.31m(7.71m)→避難判断⽔位-0.24m(7.16m))させたことにより浸⽔被害はありませんでした。(床上90⼾を含む浸⽔家屋118⼾の内⽔被害があった平成26年6⽉洪⽔時の磯ノ川地点の⽔位は7.65m。)

もし、横瀬川ダムが完成していた場合には、さらに29cmの⽔位低減効果が期待できたと推定されました。

平成30年7月豪雨時の洪水調節効果

■これからのダム管理について

(WEC)
近年の豪雨災害を受けて、また気候変動への対応を踏まえて、特に治水上ダムは様々な対応が望まれています。一方でダムについて一般の方々に正しくご理解いただくことも重要だと思いますが、事務所としてどのような取組をされているのでしょうか?

【事前放流のためのゲート改良に着手】

(三宅所長)
私自身、入省してから34年になりましたが、そのうちダム管理に12年携わって来ました。基本的にダム管理は、ルール(操作規則等)に基づき「的確に」、「冷静に」行うことだと考えて行ってきました。

中筋川ダムのゲート改良

しかし、近年の気候変動による洪水のさらなる激甚化に対応するためには、ダムの機能を最大限活用することも必要になってきました。

ここ中筋川ダムでは、平成18年度から事前放流を取り入れて洪水調節を行ってきました。また、自然調節方式のダムであるために洪水調節後の後期放流が長く続くことや、ダム下流域の下流河川において洪水被害が発生し、又は発生するおそれがある場合に、降雨状況等を勘案しながらダムの洪水調節容量をより効果的・効率的に活用し、下流域の洪水被害をより軽減させるための特別防災操作を行うために、平成31年度から堰堤改良事業によりオリフィスゲートの改良に着手しました。

また、令和2年度に完成した横瀬川ダムは、中筋川ダムと同様に特別防災操作等を行えるように、自然調節方式のダムではありますが試験湛水用オリフィスゲートを流量調整可能なゲートとして活用できるよう設計施工されています。

今後、2つのダムの新たに設けられた機能を十分に活用しながら下流域の被害軽減等に繋げていきたいと思っています。

【非常勤職員が中心となって行っている広報活動】

渡川ダム統合管理事務所は、職員11名と少ない人員で2ダムの管理・運用等を行っているため、地域の情報発信は非常勤職員が中心となって行っています。YouTubeやTwitterによる情報発信や事務所等の広報誌「ダムの絵本」、「ほたるっ子」、「なかすじnow」、「はたまる」等の企画編集を行っており、現在はわかりやすい動画による情報発信にも力を入れているところです。

また、広報資料作成のための関係機関等との調整や取材等も、非常勤職員が積極的に取り組んでいます。

非常勤職員手作りの「中筋川ダムのおしごと」と「よこぜがわダムの工事」

■地域の活性化にむけて全力で

飲みニケーション大好きな三宅所長

(WEC)
最後になりますが、三宅所長の仕事のやり方についてお話しいただけますか?

(三宅所長)
私自身は、地域に入り込み、いろいろな方と話し、沢山のことを聞きながら地域に溶け込み、地域と一緒になって仕事をして来ました。ガツガツとブルドーザーのように仕事をするのでは無く、何か知らないうちに物事が進んでいく感じで、私の周りでは、皆さんが本当に良く動いてくれます。そのための職場や地域との飲みニケーションは大好きです。

しかし、コロナ禍の中、昨年4月に渡川ダム統合管理事務所に赴任したため、地域とのコミュニケーションが取りづらい状況で、今は色々考えながらやっているところです。

これからも、地域の安全・安心、そして地域の活性化に向けて全力で頑張っていきます。