国土交通省 水管理・国土保全局 河川環境課 流水企画室
水力発電は、水の位置エネルギーを活用して発電を行う方式で、純国産資源であることから、エネルギー自給率の向上に資することに加え、燃料費がかからず発電コストが安価、天候に左右されない安定電源であること、地球温暖化の一因とされる二酸化炭素(CO₂)をほとんど排出しないなど、非常に優れた特性を有する電源であり、第7次エネルギー基本計画においても「安定した出力を長期的に維持することが可能な脱炭素電源として重要である」と位置づけられています。
国土交通省では、近年の気候変動の影響による水害の激甚化・頻発化を踏まえた治水対策とともに、2050年カーボンニュートラルに向けた取組みを加速させるため、治水機能の強化と水力発電の促進の両立させる「ハイブリッドダム」の取組を進めています。
第7次 エネルギー基本計画(令和7年2月)
⑤ 水力発電
(ア)基本的考え方
水力発電は、安定した出力を長期的に維持することが可能な脱炭素電源として重要である。また、地域に裨益する事業モデルを構築することで、地域産業の活性化・地方創生に資する。しかしながら、開発コストや規制対応等に起因する開発リスクが高いことに加え、堆砂の深刻化等による設備容量の減少、激甚化する豪雨災害等による被害、経年に伴う設備の老朽化も見られる。
また、地域との共生やコスト低減を図りつつ、自立化を実現していく必要がある。
(イ)今後の課題と対応
水力発電の開発リスクの低減や適切な再投資・維持・管理を通じた活用の促進に向けて、長期脱炭素電源オークションを含む容量市場やFIT・FIP制度等を通じて水力発電への電源投資を促進する。
さらに、中小水力発電の導入検討段階等で必要となる流量調査や地元理解の促進等を支援する。中小水力発電の隠れた開発ポテンシャルを明らかにするため、全国水系における開発可能な地点の広域的な調査や、地方公共団体主導の下での開発地点候補の詳細調査・案件形成等を推進する。
加えて、水力エネルギーを最大限活用するため、「流域総合水管理」の考え方も踏まえつつ、ダム・導水路等のインフラを所管する関係省庁と連携し、治水機能の強化と水力発電の促進を両立させるハイブリッドダムの取組として、ダムの運用の高度化、既設ダムの発電施設の新増設、ダム改造・多目的ダムの建設を推進し、発電量の増加を図る。
また、電力ダムも含めた複数ダムの連携、既存設備のリプレースによる最適化・高効率化、発電利用されていない既存ダムへの発電設備の設置等を推進する。以上について、施策間での適切な役割分担を前提に、関係省庁で連携し対応していく。
ハイブリッドダムとは、治水機能の強化、水力発電の増強のため、気象予測も活用し、ダムの容量等の共用化など※ダムをさらに活用する取組のことです。
具体的な取組内容は、以下のとおりです。
(1) ダムの運用の高度化
(2) 既設ダムの発電施設の新増設
(3) ダム改造・多目的ダムの建設
※「ダムの容量等の共用化」としては、例えば、利水容量の治水活用(事前放流等)、治水容量の利水活用(運用高度化)など。単体のダムにとどまらず、上下流や流域の複数ダムの連携した取組も含む。ダムの施設の活用や、ダムの放流水の活用(無効放流の発電へのさらなる活用など)の取組を含む。
本稿では、(1)ダムの運用の高度化について、ご紹介します。
【運用高度化による増電事例】
①弾力的管理による増電
通 常:平常時最高水位(制限水位)を超えないダム水位で運用している。
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高度化:発電を目的に新たに洪水調節容量の一部を活用(平常時最高水位を超えて)することで、水位差(落差)を大きくするとともに、(発電の)放流量を増やす。
②洪水後期の水位低下を利用した増電
通 常:洪水調節により洪水調節容量内への貯留を行った際は、次の洪水に備えて、洪水吐によりダムに貯留した洪水を放流し、
速やかにダムの水位を平常時最高水位(制限水位)以下に低下させる。
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高度化:ダムに貯留した洪水を放流する際に、最大限発電用の放流管を利用し緩やかに放流する、または一定程度水位が低下した段階で一時的に貯留し、放流する。
③洪水調節開始流量に達しない流水の貯留による増電
通 常:洪水調節開始流量に達しない流水の調節(洪水調節容量内への貯留)は、気象等の状況により必要と認められる場合に限定されている。
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高度化:洪水調節開始流量に達しない流水を洪水調節容量内に一時的に貯留し、その後、発電用の放流管を利用し放流する。
「①弾力的管理に増電」と同様に、水位を高くすることから、水位差が大きくなるとともに(発電の)放流量が増える。
④融雪出水を見込んだ水位低下による増電
通 常:利水(かんがい、上工水)に支障を与えないために確保すべき水位(確保水位)を下回らないよう運用している。
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高度化:冬季の積雪量より予測される融雪量を勘案し、融雪出水前に発電用の放流管を利用して事前に放流し水位を低下させる。
【取組状況】
・国土交通省及び水資源機構が管理するダムを対象として、令和4年度から試行を開始し、順次、試行ダム数を拡大するとともに、
本格運用に移行するためのルール化の検討を実施しています。
・また、治水機能の強化と水力発電の促進を両立させるハイブリッドダムや発電施設の新設、新技術の導入・活用、既存設備の有効活用による水力発電の増強に関する事例をとりまとめた「水力発電の増強事例集2025」を公表しております。(https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/river/content/001887891.pdf)
次年度以降は、国土交通省、水資源機構管理の全ての可能なダムで試行を継続・実施し、運用の高度化の本格実施を目指すとともに、道府県管理ダムへの導入を促進します。
おわり